ありがとうの魔法①
「先生にいいことしたわけじゃないのに、なぜぼくに『ありがとう』って言うの」
まじまじとした顔で男の子が言いました。困っていた親友を手助けした彼に、「ありがとう」と言ったわたしへの質問でした。
わたしは、「う~~~ん、何でだろう、、、」としばらく考えてから、「あっそうか!」と気づきました。
「あなたが友だちを大切にしているのを見て、わたしは嬉しい気持ちになったからだよ。だからわたしを嬉しい気持ちにしたあなたに『ありがとう』なんだよ」
と伝えると、何とも照れたような嬉しそうな表情をしました。
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ありがとうの魔法②
いろんな思いを抱えて学校に来る男の子がいました。「怪獣母さん」の息子です。生まれた場所で懸命に生きている子なのだと感じるようになると、彼が学校に来る度にわたしは、
「ああ、今日も無事に学校に来ることができたね」
「ああ、今日も会えたね」
という気持ちになりました。そして、彼が授業の途中に遅れて教室に入ってきたときにも、「今日もよく来たね」という思いを込めて、わたしは彼に笑顔を向けるようになっていきました。4月の当初、机につっぷして無気力な様子だった彼は、徐々に学校を休まなくなり、遅刻も減っていきました。
「飛び出し君」が秋に転校してきました。給食の時間に歩き回る「飛び出し君」の対応で、給食を食べる時間が5分から3分ぐらいに減った時のことです。わたしが給食を食べ終わると、
「先生、ぼく片付けておくから」
と言って、給食のトレイを片付けにきてくれました。彼の席は、わたしの席の対角線上の端、一番離れた場所にありました。翌日も、その翌日も、彼はわたしが給食を食べ終わると直ぐにやって来て片付けてくれました。
「私が食べ終わるのが分かるんだね」
と聞くと
「だって、ぼくいつも先生のことを見てるんだよ」
と彼は言ったのです。
ある日のことです。
嫌なことがあったのでしょう。朝から様子がおかしかった「飛び出し君」に声をかけたわたしは、「飛び出し君」の暴言をあびました。彼は「飛び出し君」のランドセルを片付けるのを手伝いながら、
「お前さあ、先生の言うことを少しは聞けよ。先生がお前のことを思って言ってるって、本当は分かっているんだろ」
と言っているのが聞こえてきました。
大人が怖くてたまらなかった「飛び出し君」の心に、わたしの言葉がまだ届かない頃、彼はわたしの代わりに、「ここにいていいんだよ、ここが居場所なんだよ」と「飛び出し君」の心に届けてくれたのでした。
わたしは、その姿を思い出すたびに、「ありがとう」の気持ちでいっぱいになります。
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ありがとうの魔法③
「飛び出し君」への対応にこれでいいのか確証がもてない頃、子どもの前でふと弱音を吐いたことがありました。すると、子どもたちがわたしの周りに集まって、
みんなのために頑張っている先生、ありがとう。
給食が食べられるように、もぐもぐの歌を作ってうたってくれてありがとう。
子ども達から伝えられる「ありがとう」に励まされて、涙がポタリと落ちました。
しぼんだわたしの心が、ふわふわとふくらんでいきました。
「ありがとう」の魔法です。
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