天才のたね

教室を飛び出す子どもが変わった~「飛び出し君」の春風~

今回は、

一週間に2時間、教室に居るか居られないかが分からない

暴れたり暴言を吐いたりして教室から飛び出していく

「飛び出し君」に安心する居場所ができたお話しです。

「飛び出し君」と初めて出逢ったのは、

転校してくる2週間前のこと

お母さんに連れられてきた「飛び出し君」は、

校長室のソファーの上にあぐらをかいて座っていました。

そして、わたしをにらみつけると、

「大人なんか信じるもんか」と肩をいからせて、

まるでハリネズミのように体中から

トゲトゲチクチクしたエネルギーを放っていました。

転校初日の1時間目

新しい学校で新しい自分に変わりたい

友だちがほしい

心の奥には大切な望みがあったのに、

授業開始5分後には、

「うるせ~」「ばばあ」「ぶっ殺す!」

と言って、教室から飛び出していきました。

その時の様子はまるで、

人への恐怖と不安でいっぱいの

怯えた野良犬のようでした。

わたしは彼を追いかけて、

隣の教室に連れて行き、

一緒にお絵かきをして

彼の心が和らぐのを待ちました。

転校初日の2時間目

少人数の算数を担当するパワフル先生が、

初めて会った「飛び出し君」を

授業中ものすごい目つきでにらみつけ、授業後

「あいつの好きな様にさせとくの?折角ここまで来たクラスが、

あいつのせいで、メチャクチャにされる。」

と、凄まじい剣幕でわたしに向かって怒鳴りました。

わたしは

「彼には居場所が必要だから、排除はしません。

クラスに入れます。よい手立てを一緒に見つけていきましょう。」

と、パワフル先生の激しい剣幕に押されながらも

自分の想いを伝えました。

その後すぐに、

少しでも「飛び出し君」が安心するようにと、

手を繋いで職員室に行き、

1人1人先生達を紹介していきました。

1週間後、教室の中で暴れた後で、

「ぼくはね、良い心もあるけど、

悪い心にのっとられているから、

先生がどんなに頑張ったって、

よい子にはなれないよ。」

「飛び出し君」は絞り出すように言いました。

彼の苦しそうな様子と、

クラスの子ども達に走った緊張感…

わたしは、自分の呼吸を整えて、

「だいじょうぶ。先生は諦めないんだから」

と、その時できる精一杯の笑顔で言うと、

クラスの子ども達の雰囲気が

ゆるまったのを感じました。

その日の体育

「悪い心がいっぱいあるように思えないよ。

今、がんばっていることがいっぱいあるよ。」

と言うと「飛び出し君」はホッとした様子を見せて、

最初は「出来ないから」とやりたがらなかった

逆上がりの練習をみんなと一緒に始めました。

友だちの手を借りながら、「飛び出し君」が

生まれて初めて逆上がりができた瞬間、

周りの子ども達が、

「よかったね!」と言って、笑って拍手をしました。

少しずつ少しずつ、

周りの子ども達が「飛び出し君」を受け入れ始め、

放課の時間に一緒に遊ぶ姿が見られるようになってきました。

2週間後

「この学校に来て、

心に刺さっていたとげが30本は抜けたけど、

まだ1500本ささっているんだ。」

と「飛び出し君」は言いました。

まだまだ、トゲトゲだらけの「飛び出し君」の心の傷…

すこしでも心がゆるまるといいなと感じて、

友達ができはじめた彼に、

「友だちといると、心があたたかくなる?」

と聞いてみました。すると

「うん、あったかくなる。ずっと冷たかったから

友だちのこと考えると、あったかくなる。」

と胸に手を置いて、目を閉じて「飛び出し君」はそう言いました。

この時の彼の嬉しそうな笑顔、今でも忘れられない。

ずっとずっと友達がほしかった「飛び出し君」…

3週間目

前の学校では担任の先生から

「何かあったら責任がとれない。」と断られて、

遠足に参加出来なかった「飛び出し君」

クラスのみんなと「飛び出し君」も

参加できる遠足のグループを考え、

同じグループになった子ども達の保護者一人ひとりに、

約2時間かけて対応策と方針を電話で伝えました。

遠足の当日

「まあ、先生はみんなに愛されているんだね」

と言って、うまい棒のチーズ味をくれました。

他の子ども達からも、「先生、食べて、食べて」

とお菓子がいっぱい集まりました。

「飛び出し君」に関わり続ける私に、

「飛び出し君」からの「ありがとう」と、

子ども達からの励ましに感じました。

美味しかったなあ…

あのうまい棒のチーズ味…

1ヶ月後

「飛び出し君」が、ずっと教室にいるようになりました。

そして、

「ぼくも変身しているよね。がんばれたよね」

と言い始めました。

それでも、家で暴力を受けたり、ご飯を食べさせてもらえなかったりして

辛い思いを抱えて学校に来ると、

暴れて物にあたったり、

「先生なんかにおれの気持ちが分かるものか!」と

暴言を吐いたりすることがありました。

わたしに向かって暴言を吐いた日は

下校(帰る時間)になっても、

なかなか教室から出て家に帰ろうとしないことがありました。

そんなある日のこと…

下校の時にまだ「飛び出し君」が残っているところで、

「先生は、チクチク言葉を言われて、

心は大丈夫なの。傷ついていないの。」

と、気にして言いにきた男の子がいました。

子どもの心にある優しさに触れてナミダが出そうになったけど、

バツの悪そうな表情を浮かべた「飛び出し君」を目の端でとらえた私は、

「チクチク言葉は嫌だよ。

でも、本当は『飛び出し君』だって

言いたくって言っているじゃないって

分かっているから」と笑顔で答え、

「明日も元気で学校においでね」

と、いつものように「飛び出し君」に

精一杯の笑顔を向けて言いました。

すると、男の子が思いがけないことを私に言ったのです。

「僕にはね、『飛び出し君』が先生に許してもらって

癒されているようにみえる」

すると、

「飛び出し君」の雰囲気が和らいで、

「さようなら」と言って帰っていきました。

私が子どもに驚嘆するのは、こんな時です。

子ども達はときどき友だちの心の奥にある小さな声を感じとって

上手く言えない友だちの代わりに

わたしに分かるように届けてくれるのです。

子どもの心は何と柔らかで優しいのだろう…

そんな「飛び出し君」が一度、

大声をあげで泣いたことがあります。

友だちとケンカをして気が収まらず、

教室を飛び出した後で、

なかなか教室に帰れなかった時のこと

「あいつのいる教室は嫌だ!!!!」

と廊下で叫ぶ彼に向かって、

「わたしはあなたに教室に居てほしいんだから!!!!」

と、大声で言い放った時のことです。

一瞬ぽかんとした顔をした後で、

「飛び出し君」は声をあげで泣き始め、

ひとしきり泣いた後で

「先生、ごめんなさい」

と言って、スッと教室に戻っていきました。

あなたに居てほしい…という言葉

もしかしたら、「飛び出し君」がずっとずっと、

誰かに言ってほしかった言葉だったのかもしれないと思いました。

「飛び出し君」が転校してきて

大波小波の怒濤の5ヶ月を経た清掃の時間

「飛び出し君」が教室にいませんでした。

学校の中を探していたら、

中庭で給食のゼリーを食べながら、

日なたぼっこをしている

「飛び出し君」を見つけたのです。

すごく穏やかな表情をしていました。

ああ、彼の1日の中で、

この穏やかな時間はとても貴重な時間なと思い、

「掃除の時間だよ」と言う気持ちが失せ、

「わたしもちょっといいかな」と言って、

「飛び出し君」の隣に座っていっしょに日向ぼっこを始めました‥

中庭で一緒に日なたぼっこ…

周りの子ども達も何も言わず

「飛び出し君」とわたし2人にしてくれました。

転校してきた頃に暴れた後で、

「悪い心にのっとられている」と言っていた彼の心…

今はどうなのかなとふと思い、

「悪い心と良い心、今はどうなの?」

と聞いてみました。

すると、

「最近は、どっちの心も混じり合っていて、

僕の心が戦わないから、ずっとスッとしているんだ。

先生、知っている。風にはにおいがあるんだよ。

今は春のにおいがする。」

そう言って彼は目を閉じて、風のにおいをかぎました。

わたしも一緒に目を閉じて、風のにおいをかぎました。

出逢った頃の「飛び出し君」は、

人への恐怖と不安に怯えた野良犬のようだったな…

今は「飛び出し君」の隣で

一緒にのんびり日なたぼっこかぁ…

そういえば、前の学校の引き継ぎにあった

友だちへの暴力が一度もなかった…

別の学年の子とケンカになって、

殴られた時もやり返すことはしなかった…

「友だちを叩いたり、蹴ったりしていた暴力を、

この学校ではやらなかったね。どうして我慢ができたの?」

と聞いてみました。

すると、

「前は友だちが全然いなくて不安だった。

今は、いろいろ周りがかまってくれる。

安心するから我慢ができるだ。」

と「飛び出し君」は言いました。

出逢った時には、

1500本のとげがささった心で、

トゲトゲの心のままに暴れていた「飛び出し君」に、

心があったかくなる友だちと

安心する居場所ができて、

一緒に日なたぼっこしたお話しです。

「飛び出し君」の具体的な対応策についてはこちら

教室を飛び出す子どもが変わった~具体的な対応策~

photo by Emmy

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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