天才のたね

きっと周りの人達に喜ばれる存在になりますから

お母さん、啖呵(たんか)を切る!

4月下旬、家庭訪問に訪れた時のことでした。

「初めまして、このたび担任になった、、、」

と自己紹介をしかけたわたしに、

腕を組んでわたしを睨みつける(にらみつける)と、

「1年生も2年生の先生も、

うちの子どものできないところばかり言って

わたしはね、何かあったらすぐに教育委員会に行くからね!」

更にわたしをグッと睨みつけて、

先生!紙切れ1枚で、うちの子のいったい何が分かるというの!

と、啖呵(たんか)を切ったのです。

初めましての場面で、すっかりケンカ上等!なお母さんの態度に、

わたしは「いったい何ごと????」となったものの、

ひとまず、(お母さんは先生と学校が嫌い・かも?!)

と心にメモをすると、

「紙切れ一枚でとは、いったい何のことですか?」

と聞いてみました。

すると、どうも入学前の就学時健診の知能テストの結果から

特別支援学級を教育委員会から勧められたことを示しているようでした。

わたしは「う~~ん」と悩みました。

その子どもが「読むこと・書くこと」に苦労していることはすぐに気づいたからです。

ただ、そのことについてお母さんと話し合うタイミングは今ではないなと判断したわたしは、

「まず、わたしの方でできそうなことをやってみますね。」

とお話をし、わたしにできることを試みてみました。

手立てを試みる

「読む」の場面では、

・漢字に「るび」をうつ

・1行ものさしを渡す 

 ※1行ものさしとは:字が混じって読みづらい場合に、周りの文字を隠すお手製のものさし

・分かち書きをする

 ※分かち書きとは:線を入れるか、余力があれば別プリントを作成して、文節毎に一マスあける

・わたしが読んだ後で、繰り返し読んでもらう

・大きな字にしてみる

・動作化してみる

・授業に写真や絵をとりいれてみる

(視覚化する・ユニバーサルデザインの考え方を取り入れる)

・学習プリントを作成する

「書く」場面では

・一画ずつ増やしていく練習をする

・カタカナの組み合わせで唄にする

・負担を減らすために、ノートのマスを大きくする

・赤ペンの上になぞる練習ができるように、事前に書いておく

・子どもと話し合って量を決める

・漢字テストプリントは漢字ドリルをみてもいいことにする

などなどを、順に試みていきました。

その子は、「できるようになりたい」という意欲がとてもあって、

何度も何度も粘り強く繰り返し練習することや、

「これが分からない」と聞きに来ることもする諦めない子どもでした。

ただ、周りの子ども達は進んでいくのに

その子は何度繰り返しても、努力しても

「できない」ということが繰り返されていました。

わたしは、それまでに培った(つちかった)手立てを駆使して、

できることは試みて、支援員さんの力も借りて対応してみました。

そうこうするうちに、授業の前になると

「先生、お腹が痛い」と、子どもがわたしに訴えるようになりました。

(とうとう身体にきちゃったな、今が話し時だな)と感じたわたしは、

お母さんに連絡をして、

「お話しをしたいことがあります」とお伝えしました。

お母さんとの話し合い

学校に来たお母さんは、わたしの顔を見て、

「うちの子、本当はどうなの、先生」

と真っ直ぐに聞いてきました。

初めての出会いの日に、

「何かあったら、教育委員会に行くからね」

とわたしを睨みつけて凄んだお母さんです。

さて、どう伝えたものかと一瞬迷いましたが、ここは深呼吸をして、

「直球で答えてほしいですか、それとも変化球で答えてほしいですか」

と、お母さんに返しました。

すると、お母さんも深呼吸をして、

「先生、直球でいいで言って」

と言いました。

わたしは、

「国語と図工と社会の時間の前になると

『お腹が痛い』と訴えるようになりました。

それは、彼女が本当は『できるようになりたい』

という気持ちでいっぱいなのに、

授業が分からないことが辛いからだと思います。

わたしは、読むこと・書くこと、それから空間を捉えることに、

彼女の困難さがあると思います。ただ、わたしの力だとどの部分に

その困難があるのかを特定することができません。

ウィスクというテストがあります。それを受けると、

特定することができます。特定したら、

その分野に詳しい人と相談して、どう対応したらいいのか、

彼女の力をどう伸ばすことができるかを一緒に考えることができます」とお話ししました。

お母さんはじっとわたしの話を聞き、そして

「分かった、先生。どこに行ったらそのテストを受けることができるか教えて」

と言ったのです。

お母さんの返事を受けて、支援学級の先生、教務先生、わたしと対策チームを校内に作り、

子どもに適した学び方や対応は何かを記録する

「個別の支援計画」という書類を作成し、共有化しました。

うちの子、バカだから

後日、ウィスクの結果をもって、お母さんが学校に来ました。

そして、

「うちの子、バカだから、、、、」

と、お母さんは自嘲気味(じちょうぎみ)につぶやきました。

お母さんの何とも言葉にならない想いも伝わってきました。

わたしは、胸がグッときて、

その瞬間(しゅんかん)口から言葉が飛び出してきました。

「気づいていますか。

あなたのお子さんは大人になった時に、

必ず周りの人達から喜ばれる存在になります。

必ずです!わたしには、それが分かります。

給食当番で公平におかずを分けることができます。

体育ではとても俊敏に動くことが出来ます。こんな感じです。

(実際やってみせる。しかしわたしは全然俊敏ではない)

あとですね、給食台を拭いたり、

お掃除をしたりする姿は、とてもテキパキとしています。

同じ事を繰り返し、繰り返しすることに、

彼女ほど忍耐強く取り組めるお子さんはそうそういません。

う~~ん、そうだ!

例えば、大人になって食堂とかレストランで働いて

定番料理を作ることとか、彼女に向いているかもしれません。

わたし料理がほんとにへたっぴなんで、

喜んでその時はお馴染みさんになりますよ。

彼女のいいところをそのまま大事にして伸ばしていきましょうよ。

きっと周りの人達に喜ばれる存在になりますから!」

と、一気に言うと

「本当だ、うちの子はよく気がついて、わたしの助けになってる。」

とお母さんは言い、2人で泣き笑いしたのでした。

その後で、特定の授業の時に特別支援学級に行く時に

「『バカだ』と誰かに言われないか心配だ」

と打ち明けられたのです。

わたしは、心ないことを言う子どもも

確かにいるかもしれないから、

仲良くしている子ども達の中の何人かで

「〇〇ちゃん応援し隊」を作るのはどうでしょうかと提案しました。

家庭訪問でのグッと睨みつけられた

初めての出会いの日から、4ヶ月後のことでした。

その後

その後、特別支援学級へ行く時間になると

「行ってきまーす。」と言って出かけ、授業が終わると

「ただいまー」と戻ってくる彼女を「応援し隊」が廊下で待っていて、

彼女の帰りを嬉しそうに「おかえり~」と教室に迎え入る日々が始まったのです。

たまゆらフォト

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生(たかはし あやお) 愛知県在住。元小学校教員。講師。(近い未来)作家。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

POSTED COMMENT

  1. 加藤尚美 より:

    自分の大切な子どもが、世界に否定されているのではないか。

    それはお母さんとしての自分を、世界に否定されているのと同じように感じちゃう。

    できないこの子を、できる子に変えなきゃいけない。

    そういう力が働いてしまう前に、
    「周りの人達に喜ばれる存在になります!」
    と、今すでにその子が持っている光を
    慰めじゃなくてリアルなイメージで
    世界の中に登場させてくれる。

    世界の中に、光がちゃんとあったこと。

    早い時期に、それを気づかせてもらえたら
    自分も世界も信じて生きていける。

    あやおちゃんが100人いたらいいのに。

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