天才のたね

読書感想文WS~ぼくは一生忘れないし、ずっと忘れたくない~

読書感想文WSとは

夏休みの宿題の中で、読書感想文に苦手意識をもつ子どもはとても多いです。

実際に、小学校教員時代、宿題として提出された読書感想文の中には、

・親の言葉を子どもの字で書いたもの

・本を書き写しただけのもの(そして途中でプツッと終わる)

など多数あり、子ども自身が「読書感想文」として取り組んだと思われる作品は、

全体の1/3ぐらいだったと記憶しています。

ただ、豊かな読書経験や生活経験のある子どもの感想文を読むと、

たびたびハッと気づかされる内容もあって、

わたしは、机に積み上がった子ども達の読書感想文を

時間の許す限りじっくりと読むのが

先生のお仕事の楽しみの一つでした。

今回、本をんで子ども達が心でじたことやったことを

対話を通して、く読書感想文WSを

CASAさんの全面協力を得て開催いたしました。

低学年の様子

高学年の様子

読書感想文WSの全体の流れとしては、

1 本を読む

2 感じたことを言葉にする

(↑ここをとても大切にしています)

3 付箋にメモする

4 お話しを振り返る

5 1番心に残ったことを対話し深める

対話にはそれぞれの子どものペースがあります。

じーっと考えるお子さんの場合、

沈黙の時間がとても長くて、

大人からすると何も考えていないのかと誤解することもあります。

子どもの時間の流れ方はゆっくりで、

大人の時間の流れ方はせわしなくて、

子どもと大人の時間の流れ方は随分と違うもんだなぁと

先生時代よく思っていました。

6 ワークシートに下書きをする

(子どもの集中力や持続力によって、この辺りが1つのゴール)

7 原稿用紙に清書

(子どもの様子をみて、本人に進む意志があれば進む)

そしてこの間に、子ども達の心がふわ~っと解放されるように

お店の近くの野原で生き物を一緒に捕まえたり

おむすびとお味噌汁、お菓子を一緒にいただく楽しい時間も組み込まれています。

(子ども達がおむすびやお菓子をほおばる姿があまりに可愛らしくて、

 おむすびやお菓子の写真を撮ることをすっかりと忘れました)

4年生の男の子との出会い

想像の翼を広げて、感じる心から言葉を紡ぐ力のある子どもに出会いました。

4年生の男の子です。彼の参加動機は、

「お父さんが言ったことを原稿用紙に書いていたら、

頭がうわー(頭を抱えて固まる仕草をする)となったから、

今年の読書感想文は『自分の力で書きたい!』と思って、

母さんに探してもらった。」

とのことでした。

わたしは、彼が言っている「自分の力で書きたい!」というのは、

読書感想文を原稿用紙に自力で書き上げることを示すだけではなくて、

自分の心が感じたことを言葉にして表現したい!と

この子はわたしに伝えているのだと捉えました。

お母さんのお申込動機は

・このお店に前から来たいと思っていた。

・お話しを聞いてくれる人がいれば、息子の力が伸びるのではないか

とのことでした。

子どもの願いに耳を傾けて、

子どもの力が伸びる可能性を信じて、

このWSを探していただいたお母さんの想い、

とても嬉しかったです。

感じる心から言葉が生まれていく

彼は、本を読んで感じたいろいろな気持ちを言葉にしてわたしに語りました。

「兵隊姿の紳士がかっこいい。

白い犬が死んでぼくは悲しいのに、

お金の無駄だといっている紳士がダメだな、いけないな。

道に迷った紳士がかわいそうだ。

やっとご飯にありつけて、嬉しいだろうな。

きっとおいしい料理だろうからよかった。

さっきまで風が吹いていなかったのに、

どうって風がふいたら鏡が消えたから怖い。

何か、ここからどんどん怖くなっていくのに

二人の紳士が気づかないなんておかしい、変だ。

怖い、怖い、だんだん怖くなる。」

彼の想像の翼はどんどんと開いて、

本の中の世界の登場人物になったり、

自分に戻ったりしながら、

ページをめくるごとに、いろいろな気持ちを感じ、

感じたことを身振り手振り、身体全体で表現し、わたしに伝えました。

わたしは、彼の語ることを聴きながら

問いをいくつか投げかけました。

「最初は、かっこいいと思って、ここで悲しいと思って、ここではいけないな思って、

ぼくはいろんな気持ちになるこの本がとても面白いから

たくさんの友だちにおすすめしたい。」

「いろんな気持ちになる中でも、

2人の紳士が泣き出した場面が一番心に残る。」

(西洋料理を来た人に食べさせるのではなく、

自分達が西洋料理として食べられることに気づいた

2人の紳士が泣きだした場面のこと)

「ぼくは怖かったら、次の部屋に行って確かめて、

やっぱりもとの部屋に戻るのに、

なぜ2人の紳士は扉を開けて進んでいくのか分からない。

ぼくは、このことを(初めてこの本を読んだ時から)ずっと疑問にもっていた。」

と何度か口に出し、「注文の多い料理店」がどんなお話しだったのかを

わたしに最初から語っていた時に、

彼はハッとした表情をうかべて、

一気にエンジン全開で話し始めました。

溢れだした言葉を、彼が後から振り返ることができるように、

わたしは彼の言葉の要点をメモしながら聞きました。

「2人泣き出したのは、戻るのも進むのも両方怖かったからだ!

戻っても、山道で迷子になってしまうし、

進んだら食べられてしまうし、どちらも怖くて泣いた!

そして、2人を食べようとする親分の命令に従っている子分は、

2人が親分に食べられたら嬉しいし、

2人が親分に食べられなかったら、

自分達が親分に食べられてしまうかもしれないから怖い、

嬉しいと怖いがある。

だけど、2人の紳士は、食べられるのも、

山を歩くのもどちらも2つとも怖い。

だから2人の紳士の方が辛いよ。2人の紳士はかわいそうだ。」

「2人の紳士はかわいそうだ。」と言った子どもに、

ここで登場人物である2人の紳士を自分と置き換えて考える

問いを投げかけました。すると!

「ぼくはね、戻って山道を歩くよ。

だって、逃げて山道を歩いて、

白犬のいたところまで行ったら道を思い出すかもしれないし、

歩いたらだれかが見つけて助けてくれるかもしれないし、

家に帰って生きる方が、命は一つだから、

食べられたら人生は終わってしまうから、その方がずっといいよ。」

「2人の紳士は白犬のおかげで助かってよかったよ。

人間は道を忘れてしまうけど、

犬はにおいをかいで道をおぼえているからよかったよ。」

「2人の紳士は、紙くずのような顔になって

もとどおりにならなかったのはね、

怖い思い出がずっと心に残ると、

それは顔から消えることがないということだよ!

人の心に怖い気持ちが消えないと、

顔はもとに戻らないということ。

心が大切だよ。心が大切なんだよ。

ここに出てくる猟師はまるで魔術師みたいだ。

白犬を生き返らせたのは猟師かもしれない。

猟師は魔術師で2人の紳士をテストしたみたいだ。

不思議だと思ったら近づくのか近づかないのかをテストした。

危険があったら戦うのか逃げるのかをテストした!」

と言った後で、ずっと疑問に感じていた

「ぼくは怖かったら、次の部屋が大丈夫か確かめて、

もとの部屋に戻るのに、

なぜ紳士達は言われるままに進んでいくのかが分からない」という問いの答えを、

ついに見つけたのでした。

男の子が心の中に見つけた真実

彼は、胸に手を置きながらこう言いました。

「ぼくはね、分かったよ。

どちらとも怖くても、心で決めたことは行動しなきゃダメだ!

ぼくはこの本を読んで、宮沢賢治さんの伝えたい事が分かったよ。」

大きく手を広げると

「宮沢賢治さんは、世界中の人達に

自分自身の心で決めたことは、行動しなきゃいけない

と伝えたかった。ぼくは、宮沢賢治さんの気持ちが分かったよ。

気持ちが分かって宮沢賢治さんのことが好きになった。」

わたしは、10歳の男の子の言葉を聴きながら、

心の奥から感動しました。彼は続けました。

「この本を読んでぼくの心に宮沢賢治さんの気落ちが届いた。

自分自身の心で決めたことは、行動しなきゃいけない

と思ったことを、ぼくは一生忘れないし、ずっと忘れたくない。

とキッパリと言ったのです。

最後に

下書きし、本人が書く!と決めた清書をした後で、

「ぼくは、今日頭の奥までつかったからくたくただ」

とも言いました。

頭の奥まで使ってくたくたな彼と

手作りのお菓子を一緒に食べていた時のことです。

彼はわたしをじっと見て

「ぼくは本を読んで思ったことをこんなに人に話したのは初めてだった。

友だちにも話したことはない。

友だちとは遊ぼうとなって遊ぶから、話したことはない。

本を読んで、気持ちをいっぱい話して、

それが伝わって、ぼくはすごく嬉しかった。ありがとうございます。」

と言いました。彼のその言葉はわたしの心に届きました。

わたしは、空いている席を指さして、

「ここに宮沢賢治さんがいたら、

宮沢賢治さんの気持ちがあなたの心を通して、

わたしに届いたことを喜んでいると思います。

わたしも『自分自身の心で決めたことは、行動しなくちゃいけない』と

聞いたときとても感動したし、とても嬉しかったです。

こちらこそありがとう。」

と伝えました。そして、

「わたしも忘れないし、ずっと忘れたくない」

と思いました。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

わたしが、国語の授業に対話を取り入れるようになったのは、

筑波大付属小学校の二瓶弘行先生の授業実践を観た時に、

子ども達が作品に触れて創り出された心の情景を

それぞれ自分の言葉で伝える姿に感銘を受けたからです。

二瓶先生は、「ある文学作品を学習材にして、子ども達に教えるべきは

その作品の『正解として確定された主題』ではない。教えるべき中心は、

作品の『言葉』を詳しく検討し、自らの作品世界を創造する力であると考える。」

と述べています。

わたしの課題

今回開催してみて、改善点も見つかりました。

1年生と2年生の子どもが一緒に参加したWSでの出来事です。

絵本を読んで、感じたことをメモして、

今まで書いたメモを順に振り返るところで、

1年生の子どもは黙って泣き始めました。

事柄を順序立ててお話しするというのは、

1年生としては「身につけさせたい力」であり、

つまりは、まだ身についていない力として、

何らかの手立てを講じてから

挑戦することを促した方が

今思えば適切な対応でした。

このような出来事があるといつも、

その子どもと出会った時から別れるまでの1日を

ピーっとスキャンして、

子どもが話したこと、表情、行動、

その時のわたしの対応を振り返り、

どこのどの場面でどのような対応をしたら、

子どもにとってもわたしにとっても

より活かせる体験となるのかを

繰り返し繰り返し考え、

次の対応に役立てていくことにしています。

以前、国語「話す・聞く」領域の実践研究をしていた際に、

(誰からも頼まれていないのに)作成し、

職員室で配付した資料を読み直しました。

「話すこと・聞くこと」「書くこと」「読むこと」領域の教材(1年生~3年生)編

出典元 光村図書HP

子ども達の国語の力で

何が身についていて何が身についていないかを

見極める際の参考にしていた資料です。

このような資料を読むと、次同じような場面になっても

判断する根拠が明確になり、対応ができるようになっていきます。

子ども達を一緒に見守っていただいた大人達

読書感想文WSはイートインできるお米屋さん

CASAさんの一画をお借りして開催しました。

WS開催中にもお店にはお客様が出入りします。

子どもが上手く言葉にできなくて涙をポタリと落とした時には、

「大丈夫」と声をかけていただいたり、

そっと一緒に見守っていただいたりしました。

初めてのことに挑戦する子どもの気持ちもほぐれて

もう一度とり組み、最後は笑顔になるサポートを

一緒にしていただきました。

読書感想文の清書を書き上げた子に、

その時お店にいた方々が一斉に拍手をしてくださったり、

子どもが感じたことを言葉にした時に、

「そのとおりだね~」とか、

「それはわたしの今の課題だった。、、、、、この子天才だ。」と、

心で感じたことを素直に言葉にして子ども達に返していただいたりして

まるでお家の居間にいるような温かな雰囲気の中で

読書感想文のWSを開催させていただきました。

複数の大人達が一人の子どもの成長に関わる場って温かいなぁ。

思い出すと何だかしみじみとしてきます。

ありがとうございます。

そして、先日「教員ごはん会」で出会った

若手の先生が読書感想文WSをご参観いただきました。

授業のヒントになったら幸いです。

たまゆらフォト

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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