天才のたね

教室を立ち歩く子どもが変わった~「立ち歩き君」と水浸し事件簿~

誰もいない静かな教室で心穏やかに

宿題ノートをチェックしていた時のことのことです。

廊下の向こうから、バタバタバタという足音とともに

「園長~~~~!大変だ~~~~!園長~っ!!!!!!」と

長―い廊下に響き渡る声!

「園長、直ぐに図工室に来て、直ぐに!」

子ども達の慌てた様子に、急いで図工室に行くと

あふれ出す水を手で必死に止めている

図工の先生の姿がそこに!

近寄ってみると、蛇口の上、ハンドルが外れていて、

そこから水が勢いよくあふれていました。

図工室の床は水浸し、

子ども達はキッキー、ガオー、キャキャキャと大騒ぎです。

わたしは急いで職員室に先生を呼びにいきました。

公務先生がかけつけ、

まず図工室にある他の水道の蛇口を全開にして水圧をさげ、

水の勢いがなくなったところで

外れたハンドルを取り付けました。

さて、、、、、

図工室の床がちょっとしたプール状態。

子ども達が右往左往といろんな方向に

雑巾がけをすると、

水があちらこちらへと

ちゃぽんちゃぽんと波立っていました。トホホホホ~。

「いったいどうしたら水退治ができるのでしょうか。」と

お空を見た時ひらめきました!

ここは、チームで水退治ですよ。

少し楽しくなってきました。

「はいはい、今からチームに分けて、水退治しますよ。

はい、上靴ぬいで、靴下ぬいで。

元気ある子、集まって!

あなたたちは、雑巾床ふきチームよ、

一列に並んで、一斉に同じ方向に雑巾がけをします。

ぎゅっと雑巾しぼれる子達よ、集まって!

あなたたちは床ふきチームから

パスされた雑巾をきっちり絞って、またわたしますよ。

他の子は、机の上をピカピカチームです。」と言い、

「はい、ピッピー(笛)スタート」

一斉に雑巾がけをして

ぬれた雑巾をパス。

かたくしぼった雑巾を受け取って、

また一斉に雑巾がけをする。

すると、同じ方向に水が流れ出し、

あっという間に水退治ができたのです!

何だろう、この清々しい一体感と達成感は!

ホッとした後のこと‥

「あいつのせいだ」

「あいつがやった!」と

何人かの子ども達が言い始めました。

さっきまでの清々しさが消えて、

不穏な空気が漂ってきました。

子ども達に聞いてみると

「立ち歩き君」が水道の蛇口を触っている内に、

水があふれ出たのを見た!と口々に言いました。

クラスの中に、

「やっぱりあいつか」

「あいつが悪い!」

というトゲトゲとした雰囲気が

じわじわ~と広がっていくのを感じました。

「立ち歩き君」とは、授業中立ち歩いたり、

廊下に出てったりする男の子のことです。

何かがおきると「あいつが悪い!あいつのせいだ!」と

「立ち歩き君」のせいにして

正義の剣を振りかざす子ども達の様子が

それまでも気になっていました。

本人の言い分も聞かないうちから、

「あいつが悪い」と決めつけて責めている

子ども達の様子にザワザワとした危機感を感じました。

わたしにも

「なんで、授業中に立ち歩いて蛇口をさわるの!

余分なことするんじゃないの」という

気持ちがないといったらウソになります。

しかし、腹が立つまま

子どもを「なんで、なんで」と怒鳴っても、

「本当のところ」が子ども側から出てこなければ、

子どもの成長になりません。

まずは、深呼吸して、

本人に「どうしたの?」と話を聞くことにしました。

すると、「立ち歩き君」は、

「直そうと思ったんだけど、

外れちゃってどうしようかと思った」と言ったのです。

心の中で

「う~ん、この話を信じるべきか疑うべきか。

to be or not to be : that is the question!

(生きるべきか、死ぬべきか、それが問題だ!)

ハムレットばりの悩ましい選択だな」と、

葛藤しました。

「立ち歩き君」の普段の態度からだと、

「直そうと思って」という彼の言い分を最初

なかなか信じ切ることができなかったからです‥

そこでもう一度、「立ち歩き君」の目を

じっと見つめて聞きました。

「本当に、直そうと思ったの?」

「うん、直そうと思ったんだけど、外れてしまったんだ。」と

彼はわたしの目を見て言いました。

彼の本当が「直そうと思った」なら、

普段の彼の行いから判断するのではなく、

今日の彼を信じよう。

その方がいいとわたしは決めました。

「分かった!」と私は言い、

みんなを集めて伝えました。

「彼はね、確かに蛇口を触りました。

そしたら、外れてしまいました。

だけどね、壊そうと思ってわざとやったことじゃないよ。

本当は直そうと思って触ったら外れてしまったの。

悪気がなかったけど起きてしまったこと。」

と、周りの子ども達や図工の先生から「何言っているだ!」と

言われる覚悟で伝えました。

すると、びっくりしたことに図工の先生も

「私もこの子が直そうとしたのを見たよ。

だけど、上手くいかないことだってある。

もし、わたしが蛇口を触っていたら

同じことになったかもしれない。」と

言ったのです。

すると、周りから責められていた時には

ふてくされた表情をしていた「立ち歩き君」が

神妙な顔つきになって、

「先生、みんなに言いたいことがあります」と

わたしに言ったのです。

(あれ、みんなに迷惑かけて

ごめんなさいと謝るのかな?)と内心思いました。

様子を見守ると、

すっと背筋をのばした「立ち歩き君」が

「みんな、ぼくのためにありがとう!」と言って、

深々とおじきをし、頭を下げたのです。

すると子ども達は、

「いいよ~」と言って笑って拍手し始めました…

私は、

「???、、、いったい子ども達に何が起きたの???」と

意外な展開におどろきました。

「立ち歩き君」を責めていた子ども達の

トゲトゲした雰囲気が笑いとともに変わり、

「立ち歩き君」の「ありがとう」を「いいよ~」と受け入れて

拍手しているのです。

教室の中に爽やかな風が吹いてきました。

5年生4月の出来事でした。

水にぬれた図工の教科書は、

一枚一枚テッシュを挟んで、

辞書で重しをして乾かしてもよれよれで、

色がはがれてしまったページもありました。

教頭先生にお願いをして

新しく買ってもらうこともできると、

保護者の方達にお伝えしました。

すると、誰1人新しい教科書を配付してほしいと言ってくる

保護者の方はいませんでした。

ある保護者の方は、

「娘はこの図工の教科書をずっと大切に使いたいと言っているので」と

理由を伝えてくれました。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

「立ち歩き君」は、それまでの4年間

「座りなさい!」と何度注意されても

教室を立ち歩いたり、廊下や教室で

ごろごろと寝たりする子でした。

逆に「歩いていい!」と言ってみたらどうなるだろうと

ふとひらめいて

「あるきっぷ」というものを作り、

「立ち歩き君」に試みました。

授業中に歩く時に、周りの友だちに抱きついたり

話しかけたりしないという約束です。

すると、数枚発行しただけで、

「立ち歩き君」は立ち歩かなくなり、

みんなと一緒に学ぶようになりました。

歩くな!と注意し続けると、

子どもは立ち歩きし続けて、

歩いても言いと許可すると、

子どもはやがて席に座るようになるんだなと思いました。

~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~・~

その年、卒業式を向かえた子ども達からお手紙をもらいました。

そこには、

「6年間の学校生活で1番の思い出は『水びたし事件』です。

みんなの心があの時1つにまとまったから」と書かれていました。

学力テストでは色彩心理学を活かした学習方法で

全国平均のかなり上をいった子ども達でした。

しかし、

特別な学校行事で褒められたことでもなく、

学力で達成したことでもなく、

「水浸し事件」でみんなと心が1つになったことが

1番の思い出だと感じる子どもの心…..

何だかとても愛おしいのです。

photo by Emmy

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生(たかはし あやお) 愛知県在住。元小学校教員。講師。(近い未来)作家。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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