天才のたね

わちゃわちゃ会議~試行錯誤が育む力~

何かが変だ!

4月、給食スタートの頃のお話しです。

給食当番の子ども達が、給食ワゴンから配膳台に食缶を運ぶ準備をしていました。給食の準備をして3年目の子ども達です。「もう慣れているころかしら」と準備の様子を見守っていたところ、ひやりとする場面がありました。給食のワゴンの1段目には牛乳瓶のケース、2段目には熱いスープの食缶、3段目には食器かごがのっていました。1番下の牛乳瓶の入ったケースを取り出そうと屈んだ男の子の頭のすぐ上で、熱いスープの入った食缶を取り出して運ぼうとする女の子がいたのです。男の子が牛乳瓶のケースを持ち上げようと立ち上がったら、熱いスープ缶に頭が当たってひっくりかえり、火傷をしそうな場面でした。しかし、近くにいる子ども達からだれ1人「危ないよ」という声かけもありませんでした。わたしは「何かが変だ」と感じましたが、何がどうおかしいのか、何をしたらいいのかは直ぐには分かりませんでした。

原因を突きとめる

わたしは、子ども達や先生達に「今までの給食の準備はどうしていたの」と聞いてまわりました。すると、子ども達からはいつも先生が準備を一緒にしていたと聞き、一緒に準備していた支援の先生の様子を観察しました。「それ、とって!」「次はこれ!」と、当たり前のように子ども達に指示を出していました。

わたしは、「なぜ子ども達にどうするかを聞かないで、大きな声で指示を出しているのだろう。」と不思議に思いました。そこで、低学年の頃から子ども達と関わっている先生に聞きにいきました。

「失敗の大きい子ども達の集団だけに、失敗をさせないように先生達が先回りして指示することが多かったかもしれない。」

という言葉がヒントになって、なぜ変だと感じるかが明確になりました。子ども達はそれまで指示をされるままに準備をしていたので、「危ない!」ということに子ども達が気づかないままでいること。つまり失敗をさせないように指示・命令をしているから、危険を予知し予防する力が育っていないのだということに気づいたのです。危険を予知し予防する力が身についていないまま育つ方がよっぽど危険です。

わちゃわちゃ会議と試行錯誤

子ども達は先生から指示されて準備することにすっかり慣れています。わたしも今まで通り指示を出したら、子ども達はてきぱきと準備することができます。ある意味、それは時間のかからない楽な方法です。しかし、それでは子ども達の成長はありません。わたしはどうしたものかと考えて、子ども達が失敗をしても、時間がかかっても、ここは給食の時間に指示を出すことを辞めようと決めました。ただし、スープ缶に頭をぶつけてひっくりかえすような危険は防がなければなりません。

そこで、給食当番の子ども達を集めて、

「どの順番で給食の準備をしたら安全だと思う?」

と子ども達に聞きました。子ども達は最初とまどっていました。指示・命令されることに慣れていて、今まで段取りや安全な方法について考えたことがないからです。そのうち、口々にわちゃわちゃと話し始めました。わたしは「うん、そうだね。そうだね。」と聞き、「先ずそれでやってみたら」と伝えました。給食の準備の時間になり、子ども達が決めた方法で準備をし始めました。すると、、、、めちゃめちゃ時間がかかりました。「ひやり」とする行為もありました。わたしはかかった時間と「ひやり」とした行為をメモし、再び給食当番の子ども達を呼び

「どうだった?」

と振る返りの時間をとりました。子ども達がわちゃわちゃと話し始めました。

・配膳台の準備係は真っ先にとりかかかる。

・1番重たいスープの食缶はワゴンの1番近くの配膳台に置くのがいい。

・牛乳瓶のケースを取り出すのは最後にする。

子ども達から、次はこうしたいという意見がでていきました。

加えて、わたしは「ひやり」とした行為を伝え、「どうしたら防げるかな」と子ども達に聞きました。

すると、

・〇〇ちゃんが運ぶ時には僕も手伝う。

・周りを見て確認してからやる。

などと、子ども達はそれぞれ思い思いのやり方を口にしました。

次の日になりました。再び、給食の準備の前に子ども達を集めました。そして、前日に話し合ったことを振り返り、「何をやるか」の確認をしました。わたしは、子ども達が決めたことをやっているか見守りました。そして、かかった時間をメモし、再び給食当番の子ども達を呼び、

「どうだった?」

と振り返ることと、「やる」と言っていたことを「やっていたね」、「やろうと努力していたね」と認める言葉かけ(行動承認)をし、あわせて「何か手伝えることある?」とも子ども達に聞きました。すると、

・大きいおかずの量を決めるのを手伝ってほしい。

などと、子どもから伝えられることがありました。子ども達がわちゃわちゃと話し合って、やると決めたことをやる、、そして、またわちゃわちゃと話し合う、、

それを月曜日から金曜日まで、毎日繰り返すうちに、準備にかかる時間が半分になり、「ひやり」とする場面もなくなっていきました。

翌週、新しい給食当番の子ども達にも同じことをしました。一つ付け加えたのは、「前の給食当番さんにヒントをもらってくるといいかもね」とアドバイスしたことです。すると、「どうやっていたの?」と子ども達が聞きに行き、こうすると上手くいくかもとわちゃわちゃと話し合っていました。それを一週間続けました。

翌々週も、新しい給食当番の子ども達に同じことをしました。

それを、ぐるりと一回りするまで続けました。

そして再び、最初の給食当番の子ども達になりました。わたしは、給食当番の子ども達を呼んで、前回の最短記録が何分だったかを示し「最短記録の時はどうしていた?」と聞きました。他の給食当番の子ども達と最短記録を比べることはしませんでした。子ども達がわちゃわちゃと話し合ったら、「それをやってみたら」と言って、再び準備の様子を見守りました。これをまた、給食当番がぐるりと一回りするまで続けました。

子ども達は細かな失敗を繰り返し、そのたびにどうしたらいいかをわちゃわちゃと話し合い、そのメンバーでベストなやり方を見つけていき、ベストタイムを記録していきました。やがて、子ども達だけで建設的な話し合いができるようになっていきました。

実践してみて分かったこと

わたしは子ども達とわちゃわちゃ輪になって話し合う姿を通して

・指示や命令は子ども達の考える機会を奪っている。

・失敗することや試行錯誤をすることは、潜在能力や危険を予知し予防する力を高めている。

・試行錯誤をすると、協力し合うこと、助け合うことがうまくなる。

ということが分かりました。何か問題が生じて、課題解決したい時には子ども達と輪になって、「いったいどうしたものか」と、あ~でもない、こ~でもないと、わちゃわちゃと話し合う「わちゃわちゃ会議」をその後も行ったのでした。

子ども達が口々にわちゃわちゃと話し合う姿があまりにも愛おしく、そして面白いので、試みていただきたい子ども達との「わちゃわちゃ会議」。

楽しくなること請け合いです。

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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