「子どもの世話はできません。あの子は全部、自分でできますから」
家庭訪問で初めて出会ったMちゃんのお母さんはそう言った。
小学校4年生を担任していた4月の終わりの頃だった。
それから半年後の10月…
いつもより元気のない様子に「どうしたの」と聞いたら、
「先生、母さんが今度の学習発表会は仕事で来られないって言った」
と、Mちゃんがそう応えた。
「先生から、お母さんに頼んでみようか」
「ううん、いい。母さんが働いているのは私たちのためだから」
Mちゃんが我慢していることがよく分かった。
「分かった。Mちゃんの発表見てるから。一生懸命見てるから」
わたしがMちゃんにできることはそれくらいしかなかった。
Mちゃんは、こくんとうなずいた。
お母さんはいろいろあって離婚したこと。
お兄ちゃんが不登校になって家で暴れていること。
お兄ちゃんの学校の呼び出しには、
お母さんが応じていないことが聞こえてきた。
12月の個人懇談で、いったい何をお話ししたらいいのだろうと何度も何度も考えた。
個人懇談の当日、夕方17時を過ぎた頃
「5分ぐらいしたら帰らないといけないから」と言って
教室に現れたお母さんに、
Mちゃんの学習発表会のビデオを見てもらうことにした。
「私の夢は大人になって働いて、お母さんをラクにすることです」
と、2分の1成人式でMちゃんが発表していた。
それを見てお母さんは泣いた。ずっと泣いた。
5分だけと言っていたのに、
10分たっても15分たってもずっと泣いていた。
わたしは、お母さんが泣き止むのをじっと待った。
お母さんは、
「分かっていてくれたんだ」とつぶやいた後で、
「私、家に帰ったら娘を抱きしめます。ずっとしていなかった」と
顔を上げてわたしの目を見て言った。
「きっとMちゃん嬉しいと思います。お母さんのこと大好きだから」と応えた。
何を話したらいいだろうか。どう伝えたらいいだろうか。
考えて考えた末に、お母さんと話したことは挨拶と、
ビデオをみて下さいと、最後の言葉の3つだけ‥
翌朝、いつものように教室で子ども達を迎え入れていた時に、
Mちゃんと目が合った。
Mちゃんがニコっと笑った。
Mちゃんが笑顔でいる。
それでいい。それだけでいい。
どんな言葉より、お母さんが感じることがまきちゃんの伝えたいこと。
余計なことを足そうとしない、あやおちゃんの在り方がすでに光です。