ペンギン先生の実践

「不登校傾向」の子ども達の言葉にならない想いと、本当の言葉をなげかけられる時

「不登校傾向」の子どもに初めて出会う

わたしが「不登校傾向」の子どもに初めて出会ったのは

小学校3年生を担任していた頃のことでした。

最初のその子の印象は、

背中をまるめてうつむいているその姿勢に

「何だか自分のことを守っているみたいだな」

と感じました。

その子のお母さんに初めてお会いしたときは、

早口でお話しをする様子に、お話しの内容よりも、

「わたしを怖がっているみたい。

何だか、すごく不安そう。」

と、感じたことを覚えています。

お母さんといろんなやりとりを経て、

少しずつ距離を縮めていくと

そのお母さんは週に2回~3回学校に現れて、

お話しをするようになりました。

お母さんがわたしに慣れていくと共に

子どもが学校に来るようになりました。

そのお母さん自身、かつて不登校だったことや

実のお母さんと絶縁状態で

今でもお母さんを許していないことが分かり

「お母さんとそのお母さんの関係性」が

「お母さんとその子どもの関係性」に                 

とても影響しているのだということに

わたしは気づき、「どうしたものか」と考えるようになりました。

その後クラスが変わると、

再びそのお子さんは「不登校傾向」となり、

「自分が担任ではなくなった後にも

学校に来たくなる何か手立てはあるのか。」

ということを考え始めるきっかけとなりました。

その後、その親子にスーパーでばったりと再会したときのことです。

小学校3年生だった女の子は中学生となり、

彼女もわたしを見て、ぱぁっと笑顔を浮かべました。

懐かしさでいっぱいとなったわたしは、

「今、どうしているの。」

と、私よりも身長が高くなった女の子に聞きました。

すると、わたしの質問に全てお母さんが答えてきたのです。

お母さんが応える度に、

彼女は、初めて出会った時のように

どんどんと背中を丸めてうつむいていき

雰囲気もどんよりとしていきました。

わたしはこの時の彼女の様子を繰り返し思い出し、

「わたしが子どもに話しかけて、

子どもが応えようとすると

横からお母さんが応えていく。

すると、子どもの元気がだんだんとなくなっていく。

これって、いったいどうゆうことなのかな。

子どもの言葉を横から奪うと、

子どもの気力がなくなっていくってことなのかな。」

ということを考えるようになりました。

2人目の「不登校傾向」の子ども

その次に出会った

「学校に行きたくない」女の子も3年生でした。

3年生になって2週目ぐらいから、

通学団の集合場所で泣いて

「学校に行きたくない!」と言いだしました。

原因がさっぱり分からず、

お母さんもわたしもほとほと困りました。

わたしは、その女の子の様子を日々じっと観察することにしました。

すると、その女の子は体育の服を着替えるのに、

意外と時間がかかっていることにわたしは気づきました。

「真面目でいい子、よくできる子」と

前の担任の先生から聞いていたのですが

「もしかしたらだいぶ頑張って

『できる子』でいる子なんじゃないのかな」とふと思ったわたしは、

お母さんに聞いてみました。

すると、実は体にある特徴があって、

物の動きがよく見とれないということが分かりました。

その状態だと、体育をするときに他の子が感じるよりも

きっともっと怖く感じることがあるはずなのに

その子はそれまで一度もわたしに「怖い」

ということを言いに来ませんでした。

また、学校を帰宅した後、お稽古事が毎日あって、

ときには2つのお稽古をかけもちして

同じ日に行っていることが分かりました。

お母さんに、

「もしかして体育をしているときに

本当はだいぶ怖がっているのかもしれません」

と伝えると、

「弱音は言ってほしくない。強い子に育ってほしい」

とのことでした。

「もしかして、連日お稽古で疲れているのではないでしょうか」

と伝えると

これは家庭のことに口を出したことになり、

お母さんの逆鱗(げきりん)に触れ、

「途中で諦める子になってほしくないから」

と電話越しに怒った声できっぱりと言われました。

信頼する先生に相談したり、

スクールカウンセラーの方に相談したりしても

彼女が泣いて学校に行き渋ることが続きました。

わたしは、体育の時間の前に

彼女をぎゅっと抱きしめると、

彼女の目を見て、

「怖いときは怖いって言って大丈夫だよ。

どうしたらいいのか一緒に考えようね。」

と伝えました。

彼女は、こくりと頷き(うなずき)ました。

ある日のことです。

お母さんから連絡があり、

「お稽古事を全てやめさせることにしました。」

と伝えられたのです。

そして、彼女の行き渋りがパタリとなくなりました。

お母さんが彼女に

「どうして学校に行きたくなかったの」

と聞いても、彼女はそれに応えず、

「お母さんができること全部してくたからもういいの」

という答えが返ってきたと伝えられました。

お母さんの知りたかった

「学校に行きたくない理由」は

子どもの言葉からは

結局最後までよく分かりませんでした。

その後、彼女はわたしが担任であったときも、

学年が上がって廊下で会うようになったときも

いつも両手を広げて、わたしに抱きつくと、

わたしにぶら下がってくる女の子になりました。

「言葉にならない想いっていっぱいあるのだな。

(身体から伝わる想いってあるのだな。)」

ということを、この女の子のことからわたしは学びました。

大失敗したこと

次は4年生の男の子です。

スポーツも勉強もできる人気者の男の子でした。

その頃、熱血指導真最中だったわたしは、

和太鼓の発表会に向けて練習をしているときに

その子のふりが小さくかったことを、

「やる気がないんだ」と決めつけ、

「ふりが小さい!」「もっと大きく!」

と、大きな声でその子を叱りました。

するとその男の子はしくしくと泣き始め、

翌日、学校を休んだのです。

「しまった!」と思ったわたしは家庭訪問をすると

男の子はベッドの中に入って出てきませんでした。

お父さんと話し合うと、

彼が小さなときに離婚し、

男手一つで育ててみえて、

保育園の頃から行き渋りがあったことが分かりました。

自分の指導の謝りを認めることが、

当時のわたしにはとてもハードルが高く

ぐだぐだと言い訳をした後に、

やっぱりそれにも嫌気がさして、

男の子にみんなの前で叱ったことで

心を傷つけたと思う、本当に悪かったと謝り

学校で待つことにしました。

翌朝、男の子がお父さんと一緒に来たときに、

彼はなかなか教室に入ろうとしませんでした。

わたしは、彼の一番の親友(9歳)に

どうか力を貸してほしいと頼み、

彼の親友が廊下にいた男の子を迎えに行きました。

すると、その頃いろいろとわたしの手を焼かせていた

男の子までついて行き、

なかなか教室に入ろうとしない彼に向かって

「お前はみんなから慕われていて

 クラスのど真ん中にいる男じゃないか。

 おれをみてみろ!今、崖を這い上がり、

 何とか教室の淵に居させてもらっているんだそ。」

と言ったのです。

1年の頃からずっと友だちの物を盗んでいたことを

みんなの前で認めて、「落とし物直す係」として

再起を図っている彼の言葉に妙な説得力があったからか、

親友に励まされたからなのか、

親友に付き添われて教室に入った彼は、

翌日も、その翌日も休まずに学校に来るようになりました。

とても足の速かった彼は、

放課の時間にわたしの体にタッチすると、

ターっと走って遠くに行ったり、

わたしの半径2メートルのところに笑って入ってきて

わたしがタッチしようとすると、

やっぱりターっと走って遠くに行ったりしました。

わたしは、この彼との出来事があり、

一見「頑張り屋のいい子」こそ

心がポキリと折れやすい子が隠れているので

そこに気をつけて子どもに関わらないといけない

ということを痛感しました。

最後に出会った「不登校傾向」の子ども

最後に、3年生で出会った

困窮家庭に生きる不登校傾向の女の子です。

彼女にふと、

「本当は、なんで学校に来ないの」

と聞いてみると、彼女は

「お母さんを一人にするのが不安」

と応えました。

お母さんの様子を思い浮かべて

「なるほどなぁ~」と思ったわたしは

「そうなのね、お母さんを一人にするのが不安なのね。

 それは分かったよ。

ただね、わたしは、あなたが今まで通り家にいるのと

学校に来て、今、あなたが学ぶ必要のあることを学ぶのと

どちらの方があなたに力がついて、

将来、お母さんを助けてあげることができるようになるかを

考えてほしいと思う。」

と、目を見てお話しをしました。

するとその女の子は、学校に来るようになりました。

おわりに

最初の女の子との出会いで

「子どもから言葉を奪うと、その後なにが起きるか」を

考えるようになりました。

2人目の女の子との出会いで

「言葉にならない想いがあるのだな」

ということを学びました。

3人目の男の子との出会いで

「頑張り屋のいい子」こそ、気をつけて関わる必要がある

ということを痛感しました。

そして、4人目の女の子との出会いで

つくづくと感じたこと。

それは、

「子どもは心の底からお母さんを愛している」ということです。

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ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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