ペンギン先生の実践

アメとムチにはぺんぎんパンチ~「裸の王様」がっこう編~

若い先生の涙

秋の学習発表会を控え(ひかえ)、

慌ただしく準備をしていた頃のことです。

夜、静まった学校の中を教室に向かって歩いていると

講師になって3年目の若い女の先生が教室に佇んで(たたずんで)いました。

その沈んだ様子が気になったわたしは

「どうしたの?何かあった?」

と、声をかけると、その先生はわたしを見て泣き出しました。

その日は、学習発表会の本番前に「交流」というカタチで、

異学年の子ども達が発表を見合う授業が行われていました。

その授業後、参観された先生方から

いろいろとご指導があり、

そのご指導に対してどうしたらいいのかが

全く分からず困り果てているという内容でした。

「どんなこと言われたの」

と聞いてみると

「飾りが足りないとか、

子ども達の姿勢が揃っていないとか、

いろいろと言われて….

わたしも精一杯やっていて、いろいろと言われると

どうしたらいいのか分からなくなって…..」

この若い先生にご指導した先生達の名前を聞くと、

学校の職員室で何かと幅をきかしている

おばさん先生3人組でした。

それぞれから矢継ぎ早(やつぎばや)にご指導(ダメ出し)が入り、

その若い先生は茫然自失(ぼうぜんじしつ)となってしまったようでした。

わたしは自分が初任者だった頃に

ご指導いただいていた先生が

人望のある本当に素晴らしい先生で、

その先生に教師1年目に出会い

育てていただいたことに心から感謝しながら、

彼女の教室を訪れた時の子ども達の様子や

最近の彼女の様子を思い浮かべて、

あることに気づきました。

学習発表会の日が近づくにつれ、

子ども達に「背筋を伸ばして!」

「そこ、ちゃんとやる!」

と、子ども達に向かって檄(げき)を飛ばす

彼女の顔からすっかり笑顔が消えて、

何だか鬼の形相になっていました。

泣き終わって少し落ち着いた状態になった彼女に

わたしは自分が気づいたことをお話ししました。

「ねえ、気がついている?

最近、すっかり笑顔がなくなって、

子ども達に怖い顔になっているよ。

子どもが大好きだって言っていたあなたは今どこにいるの。」

ハッとなった彼女は

「わたし、〇〇先生に叱られることが怖くて、

叱られないように、叱られないようにと思って、

子ども達を叱っていました。

本当は、子ども達を叱りたくない。

もっと楽しくやりたいんです。」

「そうだったのね。

子ども達と楽しくやりたいのね。

どんなことをして楽しくやりたいの。」

すると、彼女はさっきまでうつむいていた顔をすこし上げて

「今日、〇〇君リコーダーが拭けたんです。

最初は全然できなかったのに一緒にできたんです。

〇〇ちゃんは、声が出せたんです。昨日より上手になっていたんです。

だけど、まだ〇〇君は、自信がなくてうつむいてしまうから、

どうしたらいいのかと思っています。」

と、子ども達の名前をあげながら

嬉しそうに話し始めたのです。

「そっか、子ども達は少しずつできるようになってきているのね。

 そこを子ども達に伝えてあげると、

あなたも嬉しいし、子ども達も嬉しいと思うよ。

それから、自信がなくてうつむいてしまう〇〇君の発表の時にね、

『顔を上げなさい!』って言ったところで、

今までできなかったんだよね。

例えばだけどね、やり方を変えて、

先生が子どもが安心するなって思う言葉を「カード」に書いて

その子が発表する時に目線が上がるように「カード」を掲げて、

笑顔で〇〇君を見ていたら、もしかしたら、

顔を上げて先生の方を見て

発表できるようになるかもしれないよ。」

とお話しすると、彼女は

「そうですね!わたし何かカードを作って、

そのカードを見て発表してごらんって言ってみます。」

と、前向きになってきました。

「後は、飾りつけのことね。

先生は子ども達が少しずつでもできるようになったことを

嬉しく感じているのがわたしには分かったよ。

どんな舞台を子ども達に用意してあげたいの。」

すると、その先生はまたちょっと困った様子になりました。

わたしにアイディアがひらめきました。

「資料室にある布と(ティッシュペーパーの)お花を使って、

この窓のところにドレープを作ったら、素敵な舞台ができるかも」

と伝えると、彼女も

「本当!できるかもしれない。先生、今から資料室行きます!!」

二人で資料室に行き、布とお花をもってきて

窓にドレープを二人で作り始めると、

殺風景だった教室が素敵な舞台に変身したのです。

するとさっきまで泣いていた彼女は、

ノリノリになってきました。

「先生、わたし、今からこの壁に貼る飾りつけを作ってきます。

もう一人でできます。ありがとうございます。」

と言って、職員室に走って行きました。

彼女の様子を見届けたわたしは、

自分の教室に行き、子ども達の舞台づくりを始めたのです。

アメとムチ系賞罰指導について考えるきっかけ

学習発表会があった週は、

火曜日が学校の学習発表会

木曜日が女性部長をしていた組合で企画した

先生方170名参加の講演会主催

金曜日が女性副部長をしていた組合で企画した

先生方250名(300名だったかな?)の講演会企画・運営

という週でした。

しかも、転校してきた『飛び出し君』を受け入れて

学習発表会をどう行うかに試行錯誤していた時期でした。

子ども達の支えと頑張りもあって、学習発表会ものりきり、

打ち上げの時のことです。

わたしは、学習発表会後に、あるお母さんが教室を訪れ、

子どものことで悩んでいると相談をされました。

そちらの相談に予想以上に時間がかかり、

学習発表会後の反省用紙を印刷し配付するという

事務作業をした時には、

職員室には一人の先生が私を待っていて、

他の先生は打ち上げのために早帰りをされていました。

打ち上げの飲み会の席のことです。

わたしは、『飛び出し君』も学習発表会に参加し、

日本語が少しだけ話せるようになった

外国籍の子どもも劇の主役を務め、

それぞれの子ども達の「やりたい」ことをして

それぞれの子ども達らしさが伝わる学習発表会ができたことを

しみじみじんわりと喜んでいました。

すると、あの若い女の先生にご指導した

3人組の先生の一人がわたしに言ったのです。

「髙橋先生は、ともかく準備が遅い!

反省会のプリントも配付されていなかった!」

わたしは、

「準備が遅くて申し訳ありません。

16時まで保護者の方から相談を受けていて配付が遅れました。

机上に配付しておきましたので、週明けアンケートよろしくお願いします。」

と伝えると、もう一人の先生も

「週末を挟むと、何を書いたらいいのか忘れてしまうでしょ!

事前に配付しておくべきでしょ!

学習発表会の内容だって、準備ぎりぎりだったじゃない!」

と言われたのです。

周りの先生達を見渡すと、自分達に火の粉が及ばないように

肩をすくめてうつむいていました。

そして、先に口火を切った先生が3年目の若い先生に向かって

「髙橋先生に比べると、わたし達が言った後、

あなたは本当に短い時間であそこまでよく準備をした!

あの飾りつけ、あなたのやる気がみられた!

素晴らしい!よく頑張った!」

と、みなの前で褒め称えたのです。

その若い先生は、

「ありがとうございます。先生のご指導のおかげです。」

と言い、教室で困って泣いていたことも

わたしが手伝っていたことも

彼女はその先生に伝えることができませんでした。

「大人でも(アメとムチ)先生の顔色をみるんだ。

ましてや子ども達はいったいどうなっているんだろう」

とわたしは思いました。

わたしは、二次会の誘いを断り、

まこちゃんに「どうしても付き合ってほしい」と電話をして

教え子のお店に2人でやきとりを食べに行き、

学習発表会での子ども達の様子を喜々として話し、

その後、飲み会の席でのことを、

まこちゃんに打ち明けて、泣きました。

そしてその日を境に、

わたしはその先生方に対して、

心のシャッターをぴしゃりと閉じ、

同時に、その先生達の子ども達に対する行動や姿勢を

冷徹に観察・分析し、

今尚、学校現場に遺る「アメとムチ系賞罰指導とは何か」を

考えるようになりました。

アメとムチは無知のムチ

その後、わたしが教師を辞めると聞き及んだ(アメとムチ)先生方の中には、

教育委員会に在籍するご主人を通じてその理由をききにきたり、

「何であなたのような子どもに対して

 情熱のある人がやめるの!」と

直接言いにきたりしました。

しかし、一度閉じた心のシャッターを

その人達に向けて開きたくなかったわたしは、

わたしがその先生達の日々の姿から何を考え、

何を学んだのかを伝えることも

深く関わることもしませんでした。

人の醜い部分をぶつけられた時に、

そのまんまやり返すのではなくて

自分で納得するところまで吟味し

熟成させたいというところがわたしにあるからです。

さて、3年を経て、

当時、懸命に努力し挑戦し、

かつ

その学校でそれまで

誰も為し得ていなかったことを

為し得ているときに、

ご自身の自己重要感を満たすために

何かとダメ出しをし続けた

アメとムチ先生よ!

ぴしゃりと閉じた心のシャッターを再び開き、

あなたたちに向かって

美しい山の頂に立ち、

突き上げる衝動とともに

「ヤッホーーー」と叫ぶように

大きく息を吸って

心の底からわたしは叫ぶ!

「裸の王様」っていう童話を、

あなたたちは知ってるかーーーーい!!

あなたたちのやっていることはねーーーー

「裸の王様」そっくりだーーー!!!!!

アメとムチは無知のムチーーー!!

そこんとこ

しっかり学んで、

しっかり反省いたしなさーーーーい!

ぺんぎんパーーーーーーンチ!!!!!

おわりに

懸命に生きている人には「寄り添い」

成長が必要な人には「向き合い」

アメとムチには「対峙(たいじ)する」   

今後は、このように対応させていただきます。

以上です。


関連記事:愛のムチか無知のムチか~子どもの姿が真実~

~・~・~・~・~・~・~

「裸の王様」とは

デンマークの童話作家ハンス・クリスチャン・アンデルセン作の

人間心理の弱点を辛辣(しんらつ)に捉えた寓話として著名な作品です。

直言(ちょくげん)する人がいないために、

自分の都合のいいことだけを信じ、

真実を見誤っている高位の人を

揶揄(やゆ)する表現としても使われています。

ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

POSTED COMMENT

  1. 高田優子 より:

    私もペンギンパーンチ!!
    読んでいて涙が浮かんできました。
    こんなに自分の心に正直に向かい、子供の事を正面から向かい受け止める先生がいらっしゃったのだと、嬉しくなりました。
    あやおさん、いつも素敵な活動をされていて尊敬です。また勇気をもらいました。ありがとうございます。

    淡路島のゆうちゃんより

COMMENT

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です