「ぼくには何もいいところがない」
そう思い込んでいた
自己肯定感の低い男の子
自分のよさが分からない
自分が好きだと思えない
そんな男の子をじっと見ていると、
泣いていたり、何か出来なくて困っている
友だちの近くにいることがよくあった
日本語が話せない外国籍の男の子H君が転校してきた時も、
ジェスチャーを使いながら最初に遊びに誘っていたのは彼だった
「日本語が分からない友だちを、遊びに誘っていたね。
先生、嬉しかったな。
きっと、H君も日本語が分からなくて心細い中、
誘ってもらって嬉しかったと思うよ。」
と伝えると、とても嬉しそうな顔をした。
日本語の分からない外国籍の子
教員人生最大級の「飛び出し君」
発達障害の子ども達
個別の支援が必要な子ども達の多いクラスだからこそ
みんなが参加し発表できる学習発表会に向けて、
子ども達と発表チームを考えていた時のこと
「ぼくなら一緒にできるかも、ぼくH君とやりたい」
と、彼が言い出した
確かにH君は、今では1番の彼の友だち…
友だちをサポートしながら一緒に発表することは、
彼の成長によい機会かもしれないと思った私は、
「いいね~」と言って様子をみることにした
すると、彼はなんと!
日本語がやっと少し、
本当に少しだけ話せるようになったH君を
主役にした劇の台本を書いた
外国籍のH君のセリフはたった3つ
彼に理由を聴いたら、
「ちゃんと覚えて欲しいから」
セリフを1つ言うのも
たどたどしいH君の練習にずっと付き合って、
暗記するまで教える姿もあれば、
ふざけて遊んだりケンカしたりする姿もある
私の方にしてみると
それぞれの発表チームの内容が違うから
指導も進度もわちゃわちゃの
てんてこ舞いの日々…
ハラハラする気持ち、焦る気持ちを深呼吸で整えて
子ども達と話し合い、一緒に練習するうちに、
「やるからには思いっきり!」
という気持ちになったH君と彼のチーム
何度も何度も劇の練習をして、学習発表会当日になった
学習発表会の本番
日本語の日常会話がたどたどしいH君が主役の劇
H君は、たくさんの方々の前で、
3つのセリフを見事に言い、
大きな拍手をもらい
日本語を話すことに自信がついたようだった
そして、その日の午後に行われた算数の授業で、
転校して初めて自分から手を上げて、
答えを大きな声で発表し、
またまた周りから盛大な拍手をもらった。
その時のH君の嬉しそうな表情…
それを見ている彼の満面の笑顔…
まわりの子ども達の喜ぶ顔
その笑顔を見ながら、
日本語の分からない子どもが主役の劇かぁ…
主役のセリフがたった3つの劇かぁ…
私の発想にはなかったなぁ…
子どもって本当に天才だな…と思った
子どもの「やりたいこと」と教師の「させたいこと」
子どもの可能生を「信じること」と「疑うこと」
子どもの向かいたいところに「手を尽くすこと」と「諦めること」
学習発表会までのプロセス…
どちらを選択するのか常に試される、試される…
だけど、常に戻るところは子どもの成長と学びになるか
すると、H君を思う彼の優しさと思いやりを通して
彼自身の「天才のたね」がニョッキニョキ育ったよ
子どもの心はふわふわで柔らか
大人が思いもつかない発想で、
予想外の結果を生み出していく
でこぼこでも、ゆっくりでも
前に前にと進む力が子どもにはもともと備わっている
そして、
思いやりと優しさを通して、「天才のたね」は開花するよ