ペンギン先生の実践

教室で「話せない」子どもに出会った時に~場面緘黙の子どもへの対応~

外国籍の男の子との出会い

外国籍の子ども達に日本語を教えていた頃のことです。日本語教室の中では元気よくおしゃべりをするのに、母学級に戻ると周りの誰とも話さない、話しかけられても返事もしない男の子に出会いました。担任の先生から「あの子は簡単な返事もしない!」と聞き、放課の時間にクラスを訪れると、周りの子ども達が遊んでいる中で、椅子に座ってじっと固くなっている男の子の姿がありました。

わたしはその男の子の姿に胸が痛み、日本語指導と多文化共生を新宿区で先駆的に実践されている方に問い合わせてみました。すると「場面緘黙(ばめんかんもく)のお子さんかもしれないから、無理やり教室で日本語を話させようとしてはいけませんよ」と教えていただきました。場面緘黙について調べてみると、場面緘黙というのは、家庭ではごく普通に話すことができるのに、学校や教室など「特定の状況」では声を出して話すことができないことが続く状態のことだと知りました。「話すことが楽しい!」「伝わることが嬉しい!」という経験を、外国籍の子ども達が授業の中でいっぱいしたら、子ども達はやがて母学級で話をするようになるのかもしれないと考えて、日本語の授業を組み立てるようになりました。

教室で「話せない」女の子との出会い

その後、わたしは教員採用試験を受けて、通常学級の担任となり、一人の場面緘黙の女の子に出会いました。9歳の女の子でした。

「この子は無口で人見知り、国語の授業の音読では順番をとばしていた」との引継ぎでした。実際、教室で一緒に過ごしてみると、彼女は自分の気持ちや意見を伝えられないので、教室の中でどれだけ困っていたとしても、教師からしてみれば何も手のかからない、困り感に気づかれにくい子どもでした。そして、「話さない子だから」と誤解され、教師にとって手のかからない彼女は適切な対応をされないまま先送りになっていました。

目に見える状況は、「話さない」子どもでも、お母さんや周りの子どもたち、そして彼女自身から聞き取って、目には見えない背景を捉えていくといくつかの要因が重なって、「話せない」ことが分かりました。

①不安・恐怖・緊張

幼稚園でのお遊戯会や学校での学習発表会では、毎回大泣きをして発表ができなかった経験が重なり、人前に立つことへの極度の緊張感、失敗することへの不安や叱られることへの恐怖があることが分かりました。

②苦手について

言葉の遅れや吃音(きつおん)はありませんでしたが、教室で「話せない」ために人との関わりへの苦手意識がありました。

③環境について

仲のいい友だちがいないこと、無理やり話すよう強要されたことで先生が怖いということが分かりました。

目に見える「話さない」という状況にそのままアプローチをして、「話をしなさい!」「発表しなさい!」「なんでやらないの」「なんでできないの」と叱咤激励する光景は、学校現場でよくみられます。(アメとムチ系賞罰指導についての記事はこちら)。教師(大人)が望む結果にフォーカスして〇〇がまだできていないと減点法で子どもを捉える見方です。彼女はそのことにずっと苦しんできました。本当は話したいし、友だちと遊びたい、気持ちだって伝えたい。なぜできないのかを知りたいのは、彼女自身なのです。できないことに対する母親や教師の叱責、そして諦めによって女の子は委縮していました。

対応を試みる

目に見える状況の奥にある、目に見えない背景を捉えて、どの順番で何からできるかを考えます。小さなステップを一つずつ積み重ねていく方法で適切な対応を早期に行うのです

最初は一緒に折り紙で遊びました。そして、吹き出しに言葉を書いて、気持ちを聞いたり、書いてもらったりしました。耳元でささやくような話し方をする彼女と、会話ができるようになりました。友だちになりたい子がいることが分かりました。友だちになりたい子と同じ班にしました。すると一緒に遊ぶようになり、仲のいい友だちができました。こうやって、彼女が苦手なことにチャレンジできる環境が整ってきました。

人前で発表することに極度な緊張感のある彼女には、スモールステップの階段を用意して、成功体験を積み重ねていく支援をします。わたしの前で話す、友だちの前で話す、グループの子ども達の前で話す、話す声を少し大きくする、そうやって、彼女が苦手でもチャレンジして進める階段を探って試みていくのです。この対応策は彼女に適していました。だからといって、他の子ども達にも有効とは限りません。一人ひとりの子どもの背景や個性によって適切な対応の仕方は変わってくるからです。

秋の学習発表会のことです。

その学校では、学習発表会には、グループ学習をして発表するというのが決まっていました。わたしは彼女と2人になって「どうしたい?」と聞くと、彼女は「発表会をやってみたい」と言いました。発表会の当日、大泣きしてできなかった彼女のことです。どうしたら彼女の「発表をやってみたい」という望みを叶えられるかを考えました。彼女に「一人で発表するのではなく、友だちと2人で発表にするのはどう」と提案してみました。すると、彼女は「友だちがいると思うと心が強くなる」と言い、本番で話せなくなったときには一緒に原稿をもって読むことを彼女から友だちにお願いしました。仲のいい友だちに苦手なことを伝えて受け止められる経験もしました。

彼女からわたしにもう一つのお願いがありました。それは発表会に向けての練習の際に、初めて人前で発表ができたとき、クラスの子ども達がどよめき拍手が沸き上がりました。そのことを彼女は「自分だけ特別に思われたくない。わたしが発表しても、他の子がしたときみたいにそのまま静かに聞いていてほしい」と願っていました。わたしは、彼女の気持ちを子ども達に伝えました。

学習発表会当日、彼女は見事に発表をやりとげ、彼女のお母さんは「初めて人前で娘が発表するところをみた」と言って、発表会の間も終わった後も涙を流していました。そして彼女の小さな一つひとつのチャレンジを認められるようになり、関係性も変化したのです。

終わりに

放課の時間、椅子に座って固まっていた外国籍の男の子。教室で話せなくて困っていた女の子。もし外国籍の男の子だったら、もし話せなくて困っている女の子だったら、あなたはどんな気持ちで、どんな毎日を過ごすのでしょうか。自分の気持ちを伝えられないこと、誤解されたままでいること、人の中にいて孤独であること、、自分のこととして想像してみてください。

「困っている」ことに気づかれにくい場面緘黙の子どもは、500人に1人はいると言われています。

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ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生(たかはし あやお) 愛知県在住。元小学校教員。講師。(近い未来)作家。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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