わたしについて

父が遺した希望~幸せな家庭を築く~

父が逝って18年目

ふと、母に聞きました。

「父の夢って何だったか分かる?

父が叶えたかったことって何だったか知っている?」

その時、母は

「そんなこと急に聞かれても…」とわたしに言いました。

それから3日後の朝

「ふと想い出したことがあった」と言って

母が話しに来ました。

「お父さんの夢というか

お父さんの希望というのかな。

だいぶ年をとってからだけど

お父さんが『やっと幸せな家庭を築けた』って

おばあちゃんに話をしてね。

お父さんの希望は『幸せな家庭』だったと思う。

それから、

お父さんが学校の先生をしていた時に、

子ども達が家に遊びに来て

一緒にカレーを食べたでしょ。

あれがお父さんのやりたかったことだった。」

少し涙ぐみながら母は話しました。

父の「希望」は、

「幸せな家庭を築くこと」だったのだと知って

わたしの胸の奥の奥がふるえました。

戦時中、母親が逝き

戦後すぐに、父親が逝き

異母兄弟の中で、貧しい時代を孤独に生きた父でした。

中学校を卒業してすぐに奉公先に出され、

学業を諦めきれずにその奉公先を逃げ出した父は、

昼間は郵便局で働き、夜間高校に通って、

周りから何年か遅れて大学に進学しました。

大学では、学費が支払えずにいた父を

陰で援助してくれた父親代わりの教授のおかげで大学を卒業し、

教授の後継者にと望まれながら、

弟たちの学費を稼ぐために教師となりました。

父と母の結婚式には、両親がおらず

当時異母兄弟の学費を援助して

貯金もなにもない父との結婚を母の両親は大反対で、

友だちが集まって行う会費制の小さな結婚式に、

父親代わりの教授が出席していたのです。

今でも覚えているのは、

父の葬式の日の出来事

あまりにも急に逝った父の死の衝撃を受け止めきれずに

泣けないでいたわたしの分まで泣く一人の男性の姿がありました。

その男性は、父が小学校の先生をしているときの教え子で

子どもの頃から母親と2人暮らしだった

その男性の父親代わりとして、

結婚式に父は呼ばれて出席していたのです。

その時の嬉しそうな、ややかしこまった

父の写真が父の遺影となりました。

父は生前、お酒を飲むと、

辛かった出来事を母にもらすことがありました。

貧しい時代で食べ物がないころ、

義母が弟たちに食事を与えて父がもらえなかった時のこと

奉公先を逃げ出して、祖父(父の父)の友人を頼っていったら、

「大学を出ていないと雇えない」と冷たく言われたこと。

両親がいなかったこと

貧しかったこと

そんな経験を重ねた父にとって、

教員となり、夏休みに教え子たちが遊びに来て、

自分の家で「カレーライス」をふるまうあの時間や

母は自覚していないようだが、

母と二人で田んぼ道を散歩する時間や

家族そろってご飯を食べる時間が

父にとって

とても大切で幸せだったのです。

父が生前、

わたしに語って聞かせた

一遍の詩があります。

山のあなた

カール・ブッセ 上田敏訳

山のあなたの空遠く

「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。

噫(ああ)、われひとゝ尋(と)めゆきて、

涙さしぐみ、かへりきぬ。

山のあなたになほ遠く

「幸」(さいはひ)住むと人のいふ。

あなた=彼方

とめゆく=探しに行く

涙さしぐみ=目に涙がわいてくる 涙ぐむ

父のことを想いながらこの詩を読むと

遠い彼方にある幸せを求めていた父が

晩年、足元にある幸せを

味わっていたんじゃないかなと思えてきます。

こんなことをつらつらと書きながら

もし、今、目の前に父がいたら

わたしは父に伝えたいことがあるとふと思い、

心の中でそっとつぶやいてみました。

きっと父に届いて、父は喜んでいることでしょう。

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ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生(たかはし あやお) 愛知県在住。元小学校教員。講師。(近い未来)作家。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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