「飛び出し君」の春風~「飛び出し君」のつぶやき~

初めて出逢った日

1週間に2時間、教室に居るか居られないかが分からない「飛び出し君」は、

校長室のソファーの上あぐらをかいて、

「大人なんか信じるもんか」と肩をいからせて、

ハリネズミのように体中からトゲトゲチクチクしたエネルギーを放っていた。

 

転校初日の1時間目が始まって5分後

新しい学校で新しい自分に変わりたい

友だちがほしい

心の奥には小さな小さな望みがあったのに、

「うるせ~」「ばばあ」「ぶっ殺す!」

と言って教室から飛び出す彼が、

人への恐怖と不安でいっぱいの怯えた野良犬のように感じた。

 

転校初日の2時間目

少人数の算数を担当するアメとムチ先生が、

授業中、「飛び出し君」をすごい目つきでにらみつけ、

授業後、「あいつの好きな様にさせとくの?折角ここまで来たクラスが、

あいつのせいで、メチャクチャにされる。」

と、凄まじい剣幕で私に怒鳴った。

私は、

「彼には居場所が必要だから、排除はしません。

クラスに入れます。よい手立てを一緒に見つけていきましょう。」

と、私は震えた声で小さく言った。

 

2時間目が終わった後の15分放課

少しでも「飛び出し君」が安心するようにと、

手を繋いで職員室に行き、1人1人先生達を紹介していった。

 

1週間後、教室の中で暴れた後で、

「ぼくはね、良い心もあるけど、

悪い心にのっとられているから、

先生がどんなに頑張ったって、

よい子にはなれないよ。」

「飛び出し君」は絞り出すように言った。

クラスの子ども達に緊張感が走ったのを感じた。

「だいじょうぶ。先生は諦めないから。」

と、その時できる精一杯の笑顔で言うと、子ども達の雰囲気が緩んだ。

 

その日の体育

「悪い心がいっぱいあるように思えないよ。

今、がんばっていることがいっぱいあるよ。」

と言うと「飛び出し君」はホッとした様子を見せた。

最初は「出来ないから」とやりたがらなかった逆上がりの練習をみんなと一緒に始め、

友だちの手を借りながら、

生まれて初めて逆上がりができた。

「できた!できた!先生、できた!」

子ども達が

「よかったね!」と言って、笑って拍手をした。

 

子ども達がすこしずつ、「飛び出し君」を受け入れ始め、

放課の時間に一緒に遊ぶ姿が見られるようになってきた。

 

2週間後

「この学校に来て、 心に刺さっていたとげが30本は抜けたけど、

まだ1500本ささっているんだ。」

と「飛び出し君」は言った。

まだまだ、トゲトゲだらけの「飛び出し君」の心…

すこしでも心がゆるまるといいなと感じて、

友達ができはじめた彼に、

「友だちといると、心があたたかくなる?」

と聞いてみた。すると

「うん、あったかくなる。ずっと冷たかったから

友だちのこと考えると、あったかくなる。」

と胸に手を置いて、目を閉じて「飛び出し君」はそう言った。

この時の彼の穏やかな笑顔、今でも忘れられない。

ずっとずっと、彼は友達がほしかったんだ…

 

3週間

「何かあったら責任がとれない。」と断られて、

前の学校では遠足に行けなかった「飛び出し君」

 

クラスのみんなと「飛び出し君」も遠足に行けるグループを考え、

同じグループになった子ども達の保護者に、

約2時間かけて1人ひとり電話をし、対応策と方針を伝えた。

 

遠足の当日

「まあ、先生はみんなに愛されているんだね。」

と言って、うまい棒のチーズ味をくれた。

子ども達からも、「先生、食べて、食べて」

とお菓子がいっぱい集まった。

 

「飛び出し君」に関わり続ける私に、

 

「飛び出し君」からの「ありがとう」と、

子どもたちからの応援に感じた。

 

1ヶ月後

「飛び出し君」が、ずっと教室にいるようになった。

そして、

「ぼくも変身しているよね。がんばれたよね」

と言い始めた。

それでも、家で暴力を受けたり、ご飯を食べさせてもらえなかったりして

辛い思いを抱えて学校に来ると、

暴れて物にあたったり、

「先生なんかにおれの気持ちが分かるものか!」とばかりに

暴言を吐いたりすることがあった。

 

私に向かって暴言を吐いた日

下校(帰る時間)になっても、

なかなか教室から家に帰ろうとしないことがあった。

下校の時にまだ「飛び出し君(T君)」が残っているところで、

「先生は、『飛び出し君』にチクチク言葉を言われて、

心は大丈夫なの。傷ついていないの。」

と、大介君が気にして私に言いにきたことがあった。

大介君の優しさに触れてナミダが出そうになったけど、

バツの悪そうな表情を浮かべた「飛び出し君」を目の端でとらえた私は、

「チクチク言葉は嫌だよ。でも、本当は『飛び出し君』だって言いたくって言っているじゃないって分かっているからだいじょうぶなの」と笑顔で答え、

「『飛び出し君』、明日も元気でおいでね」

と、いつものように笑顔を向けて言った。

すると大介君が、

「僕にはね、『飛び出し君』が先生に許してもらって癒されているようにみえる」

と言った。

「飛び出し君」の表情が緩んで、「さようなら」と言って帰っていった。

 

私は、子どもの心は何と柔らかで優しいのだろうと思った。

 

そんな「飛び出し君」が一度、

大声をあげで泣いたことがある。

友だちとケンカをして気が収まらず、

教室を飛び出した後で、

なかなか教室に帰れなかった時のこと

「あいつのいる教室は嫌だ!!!!」

と廊下で叫ぶT君に向かって、

「私があなたに教室に居てほしいんだから!!!!」

と、大声で言い放った時だ。

一瞬ぽかんとした顔をした後で、

「飛び出し君」は声をあげで泣き始め、

ひとしきり泣いた後で

「先生、ごめんなさい」

と言って、スッと教室に戻っていった。

ずっとずっと、誰かに言ってほしかった言葉だったのかもしれない。

 

彼が転校してきてから怒濤の5ヶ月を経た清掃の時間

 

清掃の時間に「飛び出し君」がいない

学校の中を探していたら、

中庭で給食のゼリーを食べながら日なたぼっこをしている「飛び出し君」を見つけた。

穏やかな彼の表情を見て、

「飛び出し君」にはこの穏やかな時間が貴重だなと感じ、

「飛び出し君」の隣に座っていっしょに日向ぼっこを始めた‥

 

転校してきた頃に、

「悪い心にのっとられている」と言っていた彼の心が、

今はどうなのかなとふと思い、

「悪い心と良い心、今はどうなの?」

と聞いてみた。

 

すると彼は、

「最近は、どっちの心も混じり合っていて、

僕の心が戦わないから、ずっとスッとしているんだ。

先生、知っている。風にはにおいがあるんだよ。今は春のにおいがする。」

目を閉じて風のにおいをかぐ「飛び出し君」と

一緒に目を閉じて、春のにおいをかいだ。

 

出逢った頃の「飛び出し君」は、人への恐怖と不安に怯えた野良犬のようだった。

今は、一緒に日なたぼっこかぁ…

 

前の学校の引き継ぎにあった友だちへの暴力が一度もなかった。

 

「友だちを叩いたり、蹴ったりしていた暴力を、

この学校ではやらなかったね。どうして我慢ができたの?」

と聞いてみた。

すると、

「前は友だちが全然いなくて不安だった。

今は、いろいろ周りがかまってくれる。安心できるから我慢ができる。」

と「飛び出し君」は答えた。

 

出逢った時には、1500本のとげがささった心で、

トゲトゲの心のままに暴れていた「飛び出し君」に、

心があったかくなる友だちと安心する居場所ができて、

春が来たお話し。

 

「飛び出し君」の具体的な対応策についてはこちら

「飛び出し君」の処方箋

 

 

 

 

 

 

 

 

photo by Emmy

 

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