ペンギン先生の実践

「ノートを書こうとしない」子どもが教えてくれたこと

ノートを書こうとしない子ども達の存在に気づく


先日、田舎の小さな小学校で

5年生の子ども達に算数の授業をしました。

「立方体や直方体の体積の求め方を考える」という学習内容でした。

事前に送られてきた教科書のコピーを見てわたしは、

「公式に至るまでの考え方が教科書にすでに書かれて、

これで本当に子ども達の筋道を立てて考える力(論理的思考力)が

育つのだろうか」という疑問がわいてきました。

代打で入るクラスの担任の先生に、

「先生がご不在中に何か気になることはありますか。」

とうかがうと、

「〇〇君がノートをなかなか書こうとしないことが気になります。」

とのお返事でした。

その日が子ども達とほぼほぼ「初めまして」の日でしたので、

代打の3時間目からではなく朝から学校に行き、

2時間目からクラスに入り社会の授業を参観させていただきながら、

子ども達の様子を観察することにしました。

担任の先生の教科書を読んで、

達筆な字で黒板に書かれていく授業に、

ざっとクラスの3分の2の子ども達は参加しており、

「ノートを書こうとしない」子どもと、

あと何人かの子ども達があくびをしたり、

机にふせたりして退屈そうな様子をみせていました。

子ども達の様子が観察できたので、

算数の体積の授業は当初想定した通り、

教科書を使わずに「体験」から

公式を導き出す方法で授業を行うことにしました。

論理的思考力を身につけるには

外国籍の子ども達が日本の学校に転入した際に、

わたしにとって教えやすかったのが算数でした。

カリキュラムが異なる外国からくる子ども達が

学んでいないところまで遡って(さかのぼって)、

系統性をもって順に教えると、子ども達が

短時間で理解することができるからです。

長さは、1㎝

面積は、1㎠

面積の求め方は、

長方形の公式 「たて×横」、

正方形の公式 「1辺×1辺」です。

今回の学習課題である体積の求め方は

直方体の公式 「たて×横×高さ」

立方体の公式 「1辺×1辺×1辺」です。

このように「長さ→面積→体積」の順に

系統性をもって学べば、算数は、

短期間でテストの点数を上げることは容易な教科です。

ただし、テストの点数を上げることと

論理的思考力を身につけることは

同じではありません。

論理的思考力を身につけるには、

子どもにある時間を確保することが必要です。

それはどんな時間かというと、

試行錯誤したり、じっくりと考えたりしながら

自分で納得する解を導き出すための時間です。

わたしには、教科書の記述の仕方が、

知識を早く身につけさせることを目的としており、

その大切な試行錯誤の時間を省いているように思えました。

「ノートを書こうとしない」子どもの存在も気になりました。

その理由もあって教科書は開かずに

授業をおこなうことにしました。

実践する

「ノートを書こうとしない」子どもをじっと観察してみると、

「もしかしたら、言葉を聞き取って、

覚えて、正しく書くということが

苦手な子どもかもしれないな」と予想が立ちました。

そこで、実際に彼がどう反応するかを国語の時間で試してみました。

わたしが担任していた時はいつも国語の授業の最初に

「めあて」を言っていました。

「めあて」を1回だけ言うのを子ども達が聞き取って、

黒板にわたしが「めあて」を書き終わるまでに

ノートに書くという練習を毎日していました。

そこで、3年生の子ども達に実際に言っていたペースで

「めあて」を伝えてみました。

すると、4~5人の子ども達が既に

「分からない」という表情をしていたので、

「めあて」を2回繰り返し、黒板にゆっくりと書いてみました。

この時の子ども達の様子から、

「ノートを書こうとしない」と言われていた子どもだけでなく、

クラスに4~5人の子ども達が少なくとも「聞き取って書く」という力が

まだ十分にないことがうかがえました。

算数の時間になりました。

「体積の求め方についてかんがえましょう」と伝えた場面で、

公文に通っているという子どもが

「ぼくはね、もう答えを知っているよ」と言いました。

わたしは「本当に知っているかどうかは、今から分かるよ」と伝え、

1㎤の立方体(小さなサイコロ)がたくさん入ったケースを

子ども達に配りました。

そして、

「今から、わたしの言うカタチを

この立方体を使って作ってください。

 1回だけ言いますよ~いいですか~?

 たて3㎝、よこ5㎝」

と問題を出しました。

子ども達は、1㎤の立方体を取り出して、

「たて3㎝だったけ?」

「ぼく、ノートにメモしたよ!

 たて3㎝、横5㎝って言ってたよ。」

と言い合いながら、2人1組で並べ始めました。

すると!

見事に、教室中バラバラのカタチができました!

たて3㎝、横5㎝が

たて5㎝、横3㎝になっていたり、

たて1㎝、横5㎝、高さ3㎝になっていたりと、

子ども達の中に「たてと横」の概念が身に付いていないことが

これで「見える化」しました。

「公文で勉強したから知っているよ!」

と自慢げに言っていた子どもは、

上に積み上げて「たて1㎝、横5㎝、高さ3㎝」の

カタチをつくっており、

すってんころりんしていました。

プリント学習あるあるです。

頭で分かった気にはなっているけど、

体験と結びついていないので身に付いてはいないのです。

「先生、これでいいの?」

「これで、あってる?先生?」

という「正解」を聞きたがる子ども達の声に

「う~ん、どうかなぁ、

 あっ!正確なカタチ発見!」                                             

とつぶやきながら、子ども達の机を見て回ると、

「たて、ってこっちじゃねえ?」

「横の方が長いんだよ。向き逆だった!」

と、子ども達はわちゃわちゃと話しながら、

たて3㎝、横5㎝のカタチができていきました。

その様子を見て、

「次はね、たて4㎝、横8㎝!」

と、類題を出しました。

すると子ども達は、定規をだして挟んだり、

並べ方を工夫したりしながら

「できた!できたよ!」

「僕たちもできた!」という声を上げながら、

今度は、見事に同じカタチが揃いました。

これでやっと、「たて」と「横」という

算数の言葉が子ども達の中で共通言語となりました。

「じゃあね、次はね、

 たて3㎝、横5㎝、高さ4㎝の直方体を作ってください」

というと、

「高さが出たぞ!次は積み上げるんだな」

「う~細かくてストレスだ~」

と言いながら、子ども達が並べていきました。

積み上げたのが途中で壊れて、

半べそかいている男の子もいました。

子ども達の感情がわさわさと揺すぶられています。

実は、ここまでが今回の授業の下準備でした。

わたしは、子ども達に

「さあ、ここで本題です。

 1㎤の立方体を全部で何こ使いましたか?」

と、問いをだすと、子ども達は

「お~~~」と声を上げたのち、

1こ、2こと数え始める子、

2,4,6と数え始める子、

一段に3×5で15こあって、

4段あるから15+15+15+15=60と計算する子

3×5×4=60こ  と、かけ算で計算する子、

子ども達の解の導き方は様々でした。

そして、3×5×4の計算で出すことができる!一番速い!

は…速くて

か…簡単で、

せ…正確な

は・か・せの解き方は、「たて×横×高さ」となり、

「だからかぁ~~」という子ども達の声が重なりました。

さて、「ノートを書こうとしない」子どもは、

いったいどんな様子だったでしょうか。

2時間目の社会の時間にチャイムが鳴ってもなかなか席に着こうとせずに、

担任の先生に注意されて席についた彼は、

授業の間中、友だちと先生のやりとりが十分に理解できず、

ぐったりとした様子でいました。

そして、ノートは先生に何度か注意されて少し書いていました。

6時間目の算数の時間

彼がノートに書いたのは、1行でした。

それはどうしてかというと、

1㎠の立方体を隣の子と並べることに夢中になり、

「ぼくが真っ直ぐにする係だ!」と言って定規をもって席を立ち上がり、

隣の子が積み上げていく直方体を四方から定規で整えると

わたしの「1㎠の立方体を全部で何こつかいましたか?」

の「問い」にも、わたしの目を見て聞き、

隣の子に、「先生は、全部で何こって言ったよな」と確認をすると、

「15こ、30こ、45こ、60こ」

と言いながら、数を数えることに夢中になり、

その後、

「俺は分かったぞ、たて×よこ×高さだろ!」と言いきり、

そして、わたしが、

「今日、分かったことをノートに書いてみたら」と促すと

「たて×よこ×高さ」と1行だけ書いてノートを閉じたからです。

社会のノートと算数のノート、

どちらも書いてあることは少しです。

けれども、彼の取り組み方は全然違いました。

おわりに

1日が終わって、代打をした先生の指導担当の先生に、

「『ノートを書こうとしない』子どもの様子はどうでしたか?」

と質問されました。わたしは、

「体験を通して学ぶ時間を省くと、

彼のような子ども達が

授業からとりこぼされてしまいます。」と伝えました。

わたしは、

先日出会った「ノートを書こうとしない」子どもとか、

何回説明しても「分からない!」と言う子どもとか、

黒板に書いてあることをそのまま書き写せない子どもとか、

今回のように「たてと横」が

生活体験を通して身に付いていない子どもとか、

いろんな場面で、

勉強につまずく子ども達に出会ってきました。

そんな子ども達がわたしに教えてくれたことは、

体を使って、五感を使って、

体験を通して学ぶことが大好き!ということです。

2020年小学校の学習指導要領が改正され、

子ども達の考えを引き出すアクティブラーニングが導入されます。

それは、子ども達の生きる未来が、

もはや正解のある世界ではなくて、

自分なりに問いを立てて納得する解を導き出し

自己決定し、こうする!と選択して生きていく

課題解決の世界へ突入しているからだと思います。


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ABOUT ME
ペンギン先生
ペンギン先生 愛知県在住。元小学校教員。 学級崩壊のクラスを受け持ち、「面倒くさいし」「やりたくないし」「出来ないし」という子ども集団を目の前にして、「何とかしたい」「道を拓きたい」と懸命に試みていたあの頃の私を思い出しながら書いています。 自己肯定感の低い子ども達や家族の心の闇に直面し、「子ども達一人ひとりに、必ず1つは『天才のたね』がある!」「温かな家族のようなクラスにしたい!」という想いを心の灯火に、試行錯誤しながらも課題に1つ1つ取り組み、全国平均76%よりも低かった子ども達の自己肯定感が担任していたクラスでは97%へと向上しました。 このブログを通じて、子供達の可能性を信じる気持ちが波紋のように大人たちに広がることを願っています。

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